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ノーコードシステムは今後拡大するのか

2021年8月、キー局のTBSホールディングスが、ノーコードアプリケーション開発プラットフォーム「AppSheet」を採用して新型コロナウイルスワクチンの職域接種システムを高速で開発したことが大きな話題になりました。
ノーコードツールは国内大手ITベンダーはもちろんのこと、様々なスタートアップ企業もノーコード開発ツールのリリースを進めており、ITシステムの構築やDX(デジタルトランスフォーメーション)を達成するための一つのカギとして、大きな注目を集めています。

本記事では、ノーコードツールがどのようなものなのか、また、今後拡大していくのか、という観点を記載していきます。

ノーコードツール/ローコードツールの違い

ノーコードツールのほかに、『ローコードツール』と呼ばれるツールも世の中には多数存在します。
ローコードツールは、従来のプログラミングを行うアプリケーション開発よりも、圧倒的に少ないプログラムコードでアプリケーション開発ができる、というものです。
ノーコードツールと違い、多少のプログラミングが必要になる点が大きな違いとなっています。
なお、ITコンサル大手のGartnerは、ノーコード開発プラットフォームを”公式や単純なテキスト入力しか必要としないローコード開発プラットフォーム”と定義しているため、プログラミングが一切必要ないローコードツール=ノーコードツール、と理解すればいいでしょう。
また、ノーコードツール/ローコードツールは対象についても違いがあり、ローコードツールはエンジニアやITの知識がある人を対象にしている一方で、ノーコードツールは一般のビジネスマンを対象にしている、という点も大きな違いです。

ノーコードツールの現況

ノーコードツールを取り巻く世間の情勢・現況について、記載していきます。

世の中の導入の進み具合

ノーコードツールの導入は、現状日本においては黎明期といえますが、導入の期待感については非常に高いものがあります。BlueMeme社が実施したアンケートによると、約60%の技術者が、ノーコードツールの導入が進んでいくだろう、と考えています。

GAFAMでのノーコードツール

アメリカのIT大手、GAFAM(Google、Apple、Amazon、Facebook、Microsoft)においても、ノーコードツールの開発・公開が進んでいます。
例えばGoogleでは、2021年1月14日に ノーコードプラットフォームのAppSheetという会社を買収し、Google Cloud Platformで利用できるサービスの一つとして公開しています。
Microsoftでも、PowerPlatformというMicrosoft Dynamics 365およびOffice 365向けのノーコードアプリケーション開発プラットフォームを公開し、Office 365のライセンス(Business EssentialsとPremium、Enterprize)を持っているユーザーであれば利用可能になっています。
また、ベータ版ではありますが、AWS(Amazon Web Services)においても、HoneyCodeと呼ばれるノーコードツールが公開されており、正式な公開に向けて開発が進められています。
このように、ノーコードツールはGAFAMにおいても投資対象となっているのが現状です。

ノーコードツールの例

世の中には様々なノーコードツールがリリースされています。具体的な例を記載していきます。

● 簡単なWebサイト構築

STUDIO…Microsoft Power Pointでスライドを作成する要領でWebサイトの構築が可能です。独自ドメインの取得や広告の表示を行わなければ、無料で利用することができます。

● ECサイト、Webアプリ等の複雑なWebアプリ構築

Shopify…海外初のノーコードツールで、ECサイト構築向けです。ECサイト構築のために必要な、幅広い機能を備えています。現在175ヵ国100万店舗以上で導入されています。

BASE…CMでもおなじみで、簡単にECサイトを構築できます。日本での導入数は1位となっています。

Bubble…DB設計やAPI連携などバックエンドの構築に強みを持っています。また、ノーコードツールの中では非常に簡単に扱うこともでき、現在では大学の授業に題材として利用されるケースもあります。

Yappli…400社以上の導入実績があります。生体認証やQRコード生成といった、アプリケーション開発において便利な機能が備わっています。

● ビジネスアプリケーション

Zapier…様々な他のツールと連携できるAPIが用意されており、社内システムを多数導入している場合には、アプリケーションのハブとして有用なツールです。

kintone…業務集約・改善ツールです。バックオフィス業務に必要なアプリケーションであれば大半が構築可能となっており、機能が豊富です。

Power Platform…MicrosoftのOffice 365が利用できる環境において、ExcelやAccessなどとシームレスに連携可能です。Office 365製品で他のツールでは難しいデータ連携・ワークフロー構築が簡単に可能です。

AppSheet…Google CloudやG suitとの連携が用意です。PowerPlatformのGoogle版と考えればいいでしょう。

導入事例

● ロイヤルホールディングスの事例

外食大手のロイヤルホールディングスでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年のゴールデンウイーク期間中には全220店舗で店内飲食を休止されました。そのため従業員の休暇が相次ぎ、従業員向けの休業手当申請システムを高速に構築することが求められ、キヤノンITソリューションズのノーコード開発プラットフォーム「Web Performer」を利用し、構築が開始されました。2020年4月に要件定義を始め、5月半ばに導入完了となり、1か月余りでリリースが完了しました。

● 東急グループ

東急線沿線を中心に食品/日用品の宅配や家事代行などのサービスを代行する東急ベルでは、食品を主に扱うECサイト「SALUS ONLINE MARKET」において、受発注の管理がエクセルベースで行われていました。スクラッチ開発では高コストになると判断し、サイボウズ社のkintoneを利用してエクセルベースの受発注システムの構築を行いました。それに伴いスクラッチ開発と比較しても低コストで受発注システムを新規開発するとともに、メンテナンスにおける一定の内製化も達成し、運用コストにおいても削減を実現しています。

ノーコードツールの使いどころ

ノーコードツールは、開発プラットフォームに用意されている機能を組み合わせてアプリケーションを開発します。そのため、一定の目的に沿ったツールを用いた開発であれば、ある程度複雑なITシステムの構築が可能です。たとえば、ECサイト専用に開発されているYappliなどを利用すると、ノーコードでも非常に高いクオリティのWebサイトを構築することが可能です。また、簡単なワークフローシステムや、静的Webサイト、WebサイトのMock画面の作成といった使用方法も、現状リリースされているツールで対応可能です。一方で、複雑な基幹系のシステムについては現状ノーコードツールでの開発は不可能に近いです。

ノーコードツールは拡大するのか~拡大の是非

ノーコードツールが今後拡大していくのか、について、解説をしていきます。結論としては、既存のプログラミングをすべて一掃できるほどに拡大はしませんが、特定の分野においては利用拡大が加速していく、と考えられます。

ノーコードツールで変わるビジネス

ノーコードツールを利用することで、既存のビジネスはどのように変わるのでしょうか。

ビジネススピードが変わる

ノーコードツールによるアプリケーション開発はプログラミングの作業工程がないため、開発工程やテスト工程の大幅な短縮が見込めます。また、従来のアプリケーション開発であればベンダーへのコンペ・依頼といった部分にも時間がかかりましたが、ノーコード開発は一定の内製化が可能であるため、ベンダーへの依頼にかかった時間も大幅に削減することができます。結果として、ビジネスを展開・改善するスピードが大幅に向上し、急速に変化するビジネス環境に容易に対応できるようになります。

システム開発のコストが変わる

プログラミングの工程がない分、スキルがある人材やベンダーの調達が不要/縮小することが可能になり、システム開発における人件費を削減することが可能です。また、運用においても、アプリケーションのメンテナンスを一般のビジネスマンで対応できるようになるため、保守・運用コストが大幅に削減可能です。

組織が変わる

ノーコードツールは一般のビジネスマンでも利用できるように設計されているものが非常に多いです。したがって、従来までITとは疎遠だったビジネスマンでも、アプリケーション開発に従事することができます。これによって、副次的な効果ではありますが、組織全体のITリテラシー向上を見込むことができます。

人材不足が解消する

DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、IT人材の不足はビジネスの上で大きな課題です。ロードマップを策定しても、推進する人間が不足していればノーコードツールは、一般のビジネスマンでもあつかうことができるため、社内DXを推進する上での人材確保という観点でも期待されています。

ノーコードツールを使ううえでの懸念点

一方で、ノーコードツールの活用を拡大する上での懸念点も存在します。それはロックインの危険性です。例えば、Microsoft PowerPlatformはOffice365製品の利用が前提となっています。そのため、無理に導入しようとするとMicrosoft製品にロックインされてしまうという危険性が存在し、かえって組織のアプリケーション選択の柔軟性が欠けてしまう、という事態に陥る可能性が存在します。ノーコード製品を利用する際には、現状のIT資産や、ITシステムにおける課題をよく考えて整理したうえで、製品の選択をするようにしましょう。

まとめ

ノーコードツールは、今後利活用が拡大していくものと考えられます。理由としては下記の3点です。

①GAFAMでも投資対象になっているほど将来性があるツールである

②それぞれのツールには得意領域やメリット・デメリットがあるものの、現状様々なツールがリリースされており、多様な領域で適用していくことが可能

③ビジネスへのインパクトが大きい。ビジネススピードの改善、ITシステム開発コストの圧縮、IT人材の不足解消、社内ITリテラシーの向上といった様々なビジネス上の効果が期待できる

ただし、複雑な基幹系システムの構築においてはまだまだスクラッチ開発が十分に強みを持っているので、適用領域をよく考えて利用を推進していくといいでしょう。また、導入時にはロックイン等を考慮しないといけないので、既存のIT資産とのすみわけが進んでいくものと考えられます。

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